「絶対に顔を映さない」約束破り!2歳娘放送で父親抗議の声
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テレビ朝日の情報番組「モーニングショー」から「絶対に顔を映さない」という条件で街頭インタビューを受けたのに、オンエアでは自分と2歳になる娘の顔までハッキリと放送されていたとして、取材に協力したという男性がX上で同局に抗議した。
男性は「子供の顔が判別可能なレベルでハッキリと映ってしまっている」ことから、同局に「厳重に抗議した上でしかるべき措置を」とる、という考えを示している。
テレビ番組では、大きな事件や季節の話題を取り上げる際に、一般人のインタビューを多用する。ただ、放送された映像はSNSやインターネットで「格好のフリー素材」となって半永久的に残り続けていく。
テレビ番組に顔出しで出演することは「リスク」になっているのだろうか。テレビ朝日でニュースや情報番組を作っていた私は「バラエティー番組よりも、特にニュースとワイドショーで、制作者の想定を超えてトラブルが発生しやすい状況になっている」と考える。(テレビプロデューサー・鎮目博道)
●「一般人の出演承諾」に厳格なのは、ニュースよりバラエティ
かつてテレビ局の街頭インタビューに対する考え方は、取材するほうもされるほうも、とても緩かった。
局の腕章を付けてビデオカメラを構えて撮影していれば、「すべての撮影許諾を得た」とみなすのが一般的だった。少なくとも、私が業界入りした20世紀にはそれで十分通用した。
しかし、その後、次第に「インタビュー使用許諾」は厳しくなってきた。意外かもしれないが、ニュースや情報番組より先に、バラエティ番組の使用許諾を取ることが厳密化してきた。
「ゼネラルリリース」あるいは「出演承諾書」と言われる定型の書面が局に用意されていて、それを番組ごとにカスタマイズして使用し、街頭インタビューをとるたびに住所・氏名を記入のうえで承諾してもらうのが、今やバラエティ番組では当然となっている。
承諾の条件について記入する欄も通常設けられているので、「顔は映さないでください」ということであれば「顔出しNG」などとそこに書き込む。だからバラエティ番組で最近は「顔NGなのに放送されてしまった」などというトラブルは、ほとんど発生していないはずだ。
●ワイドショーは原則的に「承諾書」をもらっていない
だが、ニュースやワイドショー(情報番組)となると話は少し違う。「腕章をしてカメラを向けていればOK」という緩い基準がいまだに残されている。
今回トラブルとなった「モーニングショー」も、テレビ朝日の報道局が制作するワイドショーだから、原則的に街頭インタビューにあたって承諾書はもらっていないはずだ。
「顔を映さないでほしい」という要望はもちろん守らなければならないのだが、その要望を受けた現場の取材ディレクターやカメラマンがそれをきちんと記録する際にミスをすることは十分にありうる。
今回、問題になったとされる放送は、花見シーズンで混雑する東京・上野公園で撮影された。花見などでは多くの人に次々と街頭インタビューするため、「顔出しNG」と記録し忘れることもあるだろうし、メモなどに残したとしても、他の人と間違えてしまったりするかもしれない。
しかも、取材に行くディレクターとVTRを編集するディレクターが別の人物であることもしばしばだ。そこで伝達漏れがあれば、今回のようなトラブルが生じることも十分に考えられる。
●子どもの顔出しは、むしろテレビ側が念押しして確認すべき
今回、特によくなかったのは「子どもの顔が判別可能な形で出てしまったこと」だ。子どもの顔を晒すことは、プライバシーや安全の面でも非常にリスクが高く、一般の人も特にナーバスになりがちだ。
本来、取材者が現場で特に意向を確認しなければならない。「もう一度確認しますが、お子様の顔は出してもいいのですか?」ときちんと念を押したうえで、映像にも「このお子様の顔は映してもOKです」などとマイクで吹き込むなど、厳格に対応しないと必ずトラブルになる。
つまり、今回のケースでは、(1)インタビューを受けてくれた人の意向の伝達ミスと(2)本来であれば特に注意すべき子どもの顔についての確認を怠ったことの二重のミスが犯されたと考えられる。
「モーニングショー」の責任は厳しく問われるべきで、謝罪など適切な対応がとられなければならないと私は考える。
●「テレビに出てうれしい」は過去の話
先ほど「バラエティより報道が許諾に緩い」と書いたが、その背景には「一般の人からのクレームがバラエティのほうが多かったから」という事情があると思う。かつてテレビが特別な存在であったころには、テレビへの出演を喜ぶ一般の人が多かった。
厳密な承諾を得ずとも、「テレビに出られてうれしい」という反応がほぼ当たり前であった。
テレビが特別な存在でなくなるにつれて、「映さないでくれ」という要望は増えてきた。特に、バラエティ番組では、視聴者を笑わせるため「都合よくインタビューを切り取ってデフォルメする」傾向があったために、トラブルがよく発生した。
「面白く切り取られた」発言は、発言者への非難・攻撃を生じさせやすい。その傾向はインターネットやSNSの登場とともに強まった。
私自身も「インタビューを受けたが、本意ではない形で使われてしまったためネットで炎上してしまっている。どうしてくれるのか」という抗議電話を何回か受けたことがある。
取材したディレクターに悪気はさほどないのだが、こうしたトラブルを収拾するには誠意を持って謝罪にあたるしかなく、こじれると非常に大きなトラブルになりがちなので、バラエティ番組では早期に「承諾書を必ずもらう」のが当たり前となった。
また、バラエティは国内外に番組販売されたり、ネットでも公開されたり、多様に再利用されることもあり、映像として長く公開され続けるので、承諾を厳密にもらう必要があった側面もある。
●お手軽な街頭インタビューに頼る手法
しかし、ニュース番組では最近になってもさほど街頭インタビューにまつわるトラブルは発生しなかった。それほど「面白く切り取る」わけではないからだ。
しかし、批判が高まりつつあるのはどういうことか。ニュースにとって街頭インタビューは非常に便利な存在だ。ニュース番組で「世論」を示そうと思えば、世論調査か街頭インタビューに頼るのが現状だ。
街頭インタビューは手軽に世論の傾向が示せて便利だが、あまり科学的手法ではない。そういう意味でも安易に頼るのはそろそろ考え直したほうがいい。
過去には「街頭インタビューに答えた映像に不倫相手が映っていてトラブルになった」というようなケースもあったと聞く。
「バラエティーではなく、ニュースだから街頭インタビューはトラブルにならない」という考えは幻想に近い。「クレームに対する感覚の甘さ」は、街頭インタビュー以外にもニュース番組にトラブルの種を撒いていると思う。
たとえば「生中継」だ。最近のニュースやワイドショーは、容易に街頭から生中継するが、ここで映り込んでしまった「通行人の顔」に関するトラブルの発生をどう考えているのだろうか。
時に街頭からの生中継は、小型のお天気カメラのように「一切撮られていることがわからない形」でもおこなわれる。渋谷スクランブル交差点などで生中継をして「絶対映ってはいけない人」が写ったらどうするのか。
それほど深刻に考えたことがあるテレビ報道マンはほとんどいないだろう。しかし、一般の人の「テレビに映りたくない気持ち」はテレビマンの想像を今やはるかに超えている。
「デジタルタトゥー」として残り続けるリスクもあれば、「ミーム」「ネットのおもちゃ」などと呼ばれて、自分の映像がウェブ上で「面白おかしく拡散され続ける」リスクもある。そうなったときにテレビは、ほとんど何の責任も取ることができない。
やはり、ニュースやワイドショーも「承諾書を必ずもらうこと」を標準にすべきではないだろうか。
●テレビ朝日「お答えを控えさせていただきます」
テレビ朝日は4月11日、弁護士ドットコムニュースの取材に「先方とは連絡をとらせていただいております。そのため、詳細につきましてはお答えを控えさせていただきます」とコメントした。